世界に誇る日本唯一の馬具メーカー「ソメスサドル」のものづくりの原点に迫る

2022/03/11
2022/10/18
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地方には並々ならぬ情熱・こだわりを持って生まれる食材や伝統工芸などが数多く存在します。それらの品質が一級品であることはもちろん、その背景には生産者の想いや今に至るストーリーがあります。

「日本全国・地産伝承 いき物語」では、 テレビ局が地元で活躍する人を深掘りすることを通して地方の魅力を伝え、地元でしか流通しない特産品や伝統工芸品などを紹介します。

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今回の主役:ソメスサドル 代表取締役会長 染谷昇 さん
1964年に北海道で創業した、日本唯一の馬具メーカー「ソメスサドル」。北海道の開拓時代から馬具を作り続けてきた職人の技を継承し、高品質な革製品を製造しています。

当日は、ソメスサドル代表取締役会長の染谷昇さんに、馬具メーカーとしての誇り、革製品に込められた想いやこだわりを語っていただきました。

出演:田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)・森本英樹さん(ニブンノゴ!)・磯田彩実さん(テレビ北海道アナウンサー)

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ソメスサドルの歴史

染谷:私どもの会社は、1964年、58年前に隣町の歌志内市で「オリエントレザー株式会社」という会社名で創業しました。私は歌志内で生まれ育った一人です。幼少期は炭鉱で栄えた街でした。しかし1960年代に入ってからだと思いますが、相次いで住友系三井系の炭鉱が閉山になり、どんどんどんどん人が流出していき、人口減になりました。

そんな時代の同時期、北海道開拓に欠かせない馬の使役(物を運ぶための馬)に携わる馬具職人が道内にたくさん点在してたんですけれども、機械化とともにあぶれた時代でもありました。

「歌志内市をなんとか再建したい」という歌志内市の考えもありまして、北海道中の馬具職人を歌志内市に集まってもらって、炭鉱離職者の技術指導そして馬具を作ってアメリカに輸出するという当時で壮大な計画のもとで創業した会社なんです。

染谷:順調であったとは聞いていますが、1973年のオイルショックにモロに影響を受けまして、競争力を失ってしまい、結果として操業不能の会社になってしまいました。

再建者から三代目になるんですけれども、私の父親に白羽の矢が立って社長を引き受け、この会社に関わることになり、なんとか国内での市場に向けて展開できるようなことを模索し始めました。

私はたまたまその時大学生で東京におりました。その話を家族から聞いて、まてよ...と思いました。就職先を考えていた矢先でもあったんですけれども、たぶん「国内であれば東京は重要な拠点になる」という単純な考えだったんですけどね。

私は生まれ育った歌志内市が大変好きで、「郷里に対してなにか役に立ちたい。役に立つことがあれば」という思いでこの世界に飛び込みまして、東京でひとりで始めたのが私のスタートでもあったわけなんです。

田村:北海道中の馬具職人が一同に介したというお話がありましたけど、その会社は残念ながらなくなったということですけど、その方々は手に職をつけたわけですから、その後もまた違うところで活躍したんですか?

染谷:そういう方もいましたけども、歌志内市でずっと関係縁ができてから長くお勤めになられた方が大勢いました。私はまだ全く関わっていなかった時代でしたので断片しか説明できませんが、そのように聞いています。

田村:そこから会長が東京に行ってからの会社はスタートなんですね。

染谷:会社はもちろんそのまま存続はしておりましたけれども、やはり馬具という世界、競馬場であるとか乗馬クラブであるとか観光牧場であるとか、馬のいるところを軒並み回って歩いていたんですが、なかなか糸口がつかめない。

馬も乗れないものがものになるはずがないんですけれども。ただまぁ、気持ちだけが先行していたことは、今にして思うとそれだけのことだったんですけども...おかげさまでそういうとこからスタートできたことが、一般の革製品においても、ヨーロッパに良い事例が沢山ありましたので、なんとか馬具を作る技術を生かして一般革製品を作ってみたいなあという思いはその頃から持っていましたね。

●「オリエントレザー」から「ソメスサドル」へ
染谷:1985年にいろんなOEMであるとか様々な商品を作ってきたんですけれども、やはりブランドというのはとても大事だと思います。製造してる証としてのブランドは大前提でしたが、1989年に社名変更をしました。

「ソメス」はフランス語のSOMMET(頂点)という意味からとりまして、 SADDLEは英語で(鞍)という意味です。フランスと英語の造語なんですけど「最高の鞍」という意味をこめて「ソメスサドル」にしまして、ブランド名は「ソメス」と「ソメスサドル」の2つのブランドで立ち上げたのが1985年でありまして、かつての歌志内市内の創業30年を経まして、1995年に砂川市に引っ越しをして、ショールームと製造の部門を併合した施設を立ち上げて、そして今現在に至ったという経緯でございます。

森本:その中で世界にどんどん認められる馬具になっていったということですかね?

染谷:なかなかそこまではハードルが高かった。JRAや競馬場によく通いましたが、実際にお取引できるまで10年近くかかりましたので、なかなかハードルが高かったですね。

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宮内庁にも馬具を収めており、平成天皇、令和天皇の「即位の礼」でソメスサドルの製品が使われました。また、2021年凱旋門賞ではソメスサドルの馬具を使ったドイツ人の騎手の方が優勝しています。その騎手の方には「この馬具は完璧だ」と言っていただいたそうです。

森本:馬具で世界をとる。馬具がどうなれば優勝できるのか、気になりませんか。

田村:騎手の人が完璧と言うということは、たぶん馬という動物の上に馬具が乗るわけじゃないですか。こことの間に全くズレがないというか、フィットしてる。馬具がないかのように騎手を固定するための馬具がついている状況なのかな、と勝手に想像しましたけど、実際のところどうなんでしょう。

染谷:馬と乗り手(騎手)そこには鞍があるわけですけれど、一体感がないとだめでしょうね。私が馬に乗れるわけじゃないんですけれども、少なからずそういう受け止められ方をしていただけているんじゃないかなと思っております。

田村:簡単に馬と馬具をフィットさせるっていっても、元々いきもので、しかも人間みたいに言葉がわかるわけではないので、「どこをどうしてほしい」とか馬は言えないじゃないですか。そこがものすごい時間がかかることでもあるんでしょうね。

磯田:馬具の重さは何キロくらいあるのでしょうか?

染谷:競馬の鞍に関して言えば、一番使われているのはだいたい550gなんです。
これは騎手とレースによって体重が違いますが、騎手の体重とサドルを加えた体重が前提になっているんです。ですから鞍はできるだけ軽くしないといけないんですね。

森本:馬との連携が取れないところをすり合わせていってるのかが知りたいんですよ。
馬は喋れないじゃないですか?どういう風にしてフィット感を生み出していくのか。

染谷:競馬の鞍(サドル)と乗馬の鞍は同じ馬に乗せて使うものですが、乗馬は馬術までありオリンピック種目にもなっていますけれども、奥が深くて、加工度というか技術力がいる道具なんですね。ヨーロッパでも「鞍を作っている職人」というだけでものすごく評価が高い。私も何度かヨーロッパにいった時にカタログを持ってあちこちにいきましたけど、カタログを見せると態度が変わるということを何度も経験しましてね。

森本:馬に乗せてみてフィット感を確認するんです?

染谷:そうですそうです。馬に乗せない限りはなんの意味もないですね。

森本:隙間を見てとかそういうことですか?

染谷:そうですね、馬の背は曲線になっています。突貫に「き甲(きこう)」という骨が出っ張ってるんですよ。これが非常に大事なところで、そこをちゃんと保護した上で乗り手が乗りやすい鞍を作らなきゃいけないっていうのが大原則なんです。

田村:どっちにもですよね。馬と乗り手にフィットしないといけないから、その人(乗り手)と馬をつなぐという意味でどっちも欠けたら、いい馬具にならないということですもんね。

染谷:そうですね。すごい繊細な道具であることには間違いないですね。

森本:職人の技が生かされた製品が、ソメスサドルということなんですね。

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森本:淳さんのお手元に財布が届いていると思いますが、どうでしょう?

田村:手触りが抜群にいいなぁ。

染谷:これは実は馬の革なんですね。馬の臀部、お尻の革ですね。

染谷:コードバンは特殊な技法を使っていまして。このコードバンに関しては裏の部分を加工して表側として革となっているんです。

森本:それは普通やらないんですか?

染谷:普通は表面を使います。これは、馬の臀部は非常に運動量が多くて繊維の密度がすごくあるんですよ。繊維の密度が高いということは、堅牢度が高いという証にもなる。丈夫なんです。

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森本:実際に触ってみてどうですか?

田村:内と外の違いはわからないけど、とにかくさわり心地がいいのでスリスリしたくなる。ほんと、指先の感覚で今まで味わったことのないぐらいの密度というか...うまく言葉にできないけどずっと触っていたい。

森本:つるっとしてるんですか?ざらっとじゃなく?

田村:ざらっとじゃなく、すごく気品がある色合いなのに、触ると柔らかいんですよ。
で、さっき会長が言っていた、人と馬ををつなぐ時にものすごくフィットするっていうのが、財布を触るだけでも、「あ、この接地がこの革だったら、人にも馬にも負担がないだろうな」っていうくらいの優しい加工技術みたいなのが詰まっている。

今までの「レザー」は堅いイメージがあるんですが、このお財布は優しいんですよ、なんか。笑っちゃうくらい。

森本:実際、馬具の職人さんがそのまま一般革製品を作ってるからですよね?

染谷:そうですね、そういうイズムというか(馬具の)技術力を持って、日頃たくさんの商品を開発して作っているということですね。

森本:だから今淳さんも手にとって、馴染むというか。使い手の気持ちがわかるように職人が作っているということなんですかね。

染谷:それは嬉しい褒め言葉ですね。

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染谷:内側の仕様についてはまた別の革でして、ベビーバッファローという6ヶ月未満の水牛の皮なんですよ。

水牛の特徴というのは、引っ張る力がすごく強いんです。その特徴を活かして、カードを入れたり出したりしてると割と伸びやすいんですね、革というのは。ですから、なるだけ革が伸びないわけではないんですが、できるだけ伸びるところをそうならないようにしようとしてベビーバッファローを使っています。

田村:水牛部分もやさしい。俺が知っている革って、もっとカチッとしている。革を使いこんでいくと柔らかくなるじゃない。

だけどもうこの状態で使い込んだかのような優しさがもう、この革にあるんですよ。だから手馴染みが良いというか、今日僕初めてこの財布と初めてお会いしたけど、昔から持ってるみたいな馴染み感がある。それがすごく不思議というか、加工技術なんでしょうかね、会長。

染谷:そう言っていただければ、もう言うことはありませんね。

田村:ほんと触れてほしい。俺が言ってる優しいっていうのがわかるから。

森本:淳さん思ったこと正直に言いますもんね、いつも。そういう方ですもんね。

田村:そうですね、「(違いなど分からない時は)よくわかんないですねえ」とか言っちゃうんですけど、これは違いがあからさまに、革製品とはこうあるべきなのかというか。

森本:なんか顔がほころんでいますもんね。さっきから。

田村:嬉しいです。こういう技術に触れられて。

カード入れのデザインに隠されたこだわりとは

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田村:これデザインだと思うんですが、カードが取りやすくちょっと波打っているようにされているんですね。これたぶん研究されてってことでしょうね。

染谷:使い勝手ももちろんですけれども、(波の部分は)鞍のR(曲線)をイメージしているんです。

森本:馬具を忘れないんですね。随所に取り入れてるんですね。

田村:真っ直ぐなのはよく見ますけど、波っぽいのはなんでなんだろうと思ったら、そういう意味合いだったんですね。

森本:馬具から来ていたということです。そのラインを出すのにひと手間かかっているってことですね。

●革製品のメンテナンス
染谷:革の丈夫さはすごくあるんですけど、たぶん長く使っていただいた上でどこがおかしくなるかというと、糸が切れるかもしれません。随分先になるかもしれませんが。革は経年変化はしますが大丈夫です。

田村:既に手馴染みがいいんですが、そのまま使い続けていくとどんな馴染み方になるんですか?

染谷:少し色に深みが出てきます、もう少し柔軟になります。いくらかですけどなります。
糸が切れたらメンテナンスし、糸を縫い直してお戻しします。

森本:淳さん、革製品なんかは例えばオイルを塗らないといけないとかありますが、そういう手入れはどうですか?そういう革製品を使ったことはありますか?

田村:僕、道具は意外と大切にしたい派なので、使ってますよ。

森本:じゃあこういう財布を手に入れても?

田村:手入れしないといけない財布を手にしたことはないので、初めてですね。

森本:会長、手入れについてはどうですか?

染谷:当面はあまりいじらなくても大丈夫です。多少革が表面乾燥してきたなとか。やっぱり自然ですから、皮膚呼吸しているところがありますので。そういうというときには若干のケア、オイルか何かを塗ってあげるとまたさらに雰囲気が出るというか、いい経年変化が期待できますね。

田村:その場合、馬の油とかがいいんですか?

染谷:専用の油もあるんですけれども、そこまでやらなくても通常のオイルでも大丈夫だと思います。

森本:ちょっと光った感じがありますね。

染谷:光も変化しますが、いつもピカピカということにはなっていかないんですね。
馴染んでくるっていう言い方も抽象的ですが、味わい深くなっていくことだけは間違いないですね。私も長く同じのを10年近く使ったことがありますけれども。

田村:僕、金継ぎっていう割れた器を漆で修復するのをやるんですよ。あれって、何度も漆を塗るだけだと修復できなくて、何度も目をちょっとずつ細かくして、研いでいって、金を巻くんですけれども。漆でしゃーっと塗られたような光沢、気品があるんですよね。この光沢を出すのがあるんだろうな。なんか秘密が。

漆で仕上げているのかってくらいすごい気品があるんですよ。でも漆で仕上げたら、かっちかちになるじゃないですか。革を加工する技術でここまでできるっていうのが、いいものに触れているなって感じがして凄くテンションが上がりますね。

ソメスサドルのベルトのこだわり

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ソメスサドルのいろんな技術は、小物にも活かされています。生活に溶け込む革製品がいろいろとあるようです。

染谷:ベルトは、言うまでもなく馬具用の革でして、日頃馬に装着してする馬具をつくっている革です。厚みは5ミリほどあります。通常5ミリの革は入手するのが難しいんです。

ベルトは男性女性は問いません。締め始めて歩いて一定の時間が経ちますと、後ろが弓の字になります。そうすると馴染んできます。やわな革だとそのまま崩れてしまいますが、この革の場合はウエストサイズが変わらない限り永遠に使えますね。後ろが必ず弓形になって、そこで止まってくれます。

森本:だからそこも馬具にこだわることによってということですね。

染谷:ええ、馬具用の革のど真ん中は普段使用している革ですね。

森本:(実際に使われているベルトを手にとって)既に使われているものは、全然柔らかくなっている。形は曲がってきますけど、自分の体に合っていくみたいな。

染谷:これもやっぱり馴染んでいくと離しがたいものになるんですね。
田村:そっかぁ。自分だけの体にあった道具になっていくんだもんね。
森本:そうですね、愛着がどんどん湧きますね。革のベルト、1本ほしいですね。

磯田:これだけいろんな一般の革製品もありますが、今後ソメスサドルさんはもっと成長していくのでしょうか?

染谷:革の分野は幅が広いといえば広いですが、バッグ・鞄の世界にとらわれずに、インテリアであるとか...そういうジャンルも今までも得意な分野として作ってきたところもあるんですけれども、もう少しインテリア的な製品も開発していきたいという思いがあります。

森本:淳さん、望むものとか、「何かこんなものができたらいいな」というのはありますか?

田村:この財布の手馴染み感がすごいので...ただ財布ってお会計の時しか出さないじゃないですか。でもずっと触っていたいんですよ。ソメス技術を。

となると、スマホの小物だったらずっと触ってられるんじゃないかなって。スマホケースとか。

染谷:技術的に作るのは可能ですね。製品としてはまだ作っておりませんけれども。

田村:スマホの機種を変えた時に離れなきゃいけないっていうのがやっぱり心苦しいので。
どんな機種が出ても手にいつもいてくれるようなものになればいいなと思います。

スマホケースに後からくっつける形でもいいので、革に触れてたいというか、革の馴染み感がいつもあるとなると、もっと革が近くにあるというか。いつも革製品が近くにあって当たり前というところまで持ってくると、もっとその他の商品とかにも、きっかけになって買ってくれる人がいるんじゃないかなと。

染谷:革というのは自然素材であると同時に、私も45年近く関わってきましたが、人の気持ちを豊かにする不思議な力がありますね。そんな感じを時々自分も持っていて。実感といえば実感ですね。

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出演者からのメッセージ
ソメスサドル 代表取締役 会長 染谷昇さん
馬具から創業をはじめて今も作り続けているんですけれども。そこから派生した革製品がたくさんのものをつくってきました。これからも社員と一緒になって同じ方向に向かって、馬具メーカーの誇り、これはずっと持ち続けなければいけないことと併せて、お客様や取引先から一流と評価される企業を目指していきたいと改めてそんな思いに今至っております。

ロンドンブーツ1号2号 田村淳さん
革製品の概念が覆されたというか。革の面白さというか、一流の品物に触れると「あ、なるほど。これが革の加工技術なんだ」というのがようやく分かりました。

これからの人生でいろんな革の製品に合うと思うんですけど、間違いなくここ(手元のソメスサドルの財布)が基準になりますね。この財布の柔らかさを出せているのかどうかというところで、僕は自分が興味関心を持つかというところに視点を置くだろうな、と。それぐらい今日の革製品のお勉強が楽しかったですし、これからの革ライフが楽しみになってきましたね。

森本:やっぱり職人の技っていうのはすごいですね。人の心を動かしますね。

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