時代の逆を行く「コッボコボ」なさつまいも、五郎島金時の魅力に迫る

2022/04/06
2022/04/08
thumbnail

地方には並々ならぬ情熱・こだわりを持って生まれる食材や伝統工芸などが数多く存在します。それらの品質が一級品であることはもちろん、その背景には生産者の想いや今に至るストーリーがあります。

「日本全国・地産伝承 いき物語」では、 テレビ局が地元で活躍する人を深掘りすることを通して地方の魅力を伝え、 地元でしか流通しない特産品や伝統工芸品などを紹介します。

alt

今回の主役:JA金沢市五郎島さつまいも部会長 酒栄 優次(さかえ・ゆうじ)さん
石川県金沢市の日本海に面した砂丘地で作られる、コッボコボ(ほくほく)なさつまいも「五郎島金時(ごろうじまきんとき)」。2022年には、日本中のさつまいもが集まる「日本さつまいもサミット」にて最高峰に選ばれました。

「五郎島金時」の歴史は長く、加賀野菜(金沢の伝統野菜)として今でも金沢の伝統料理や家庭料理で出される食文化の一つです。

紅はるかのような蜜たっぷりの焼き芋が主流な中、昔ながらのコッボコボな食感をぶれることなく大切にする「五郎島金時」とは、どのようなさつまいもなのでしょうか。

当日は、JA金沢市 五郎島さつまいも部会の酒栄優次(さかえゆうじ)部会長に、「五郎島金時」への想いを語っていただきました。

出演者:田村 淳さん(ロンドンブーツ1号2号)・三原 千明さん(JA金沢市 ふれあい課 広報)

alt

■ 「コッボコボ」なさつまいも、五郎島金時の歴史

三原:淳さん、「コッボコボ」って聞かれたことありますか。

田村:いや、聞いたことないです。コッポ?コッボ?

三原:金沢弁で、五郎島金時にしか使われない方言なんですよ。酒栄さん、五郎島金時がどんなさつまいもなのかご紹介いただけますか?

酒栄:五郎島金時はですね。石川県の金沢...金沢市わかりますか?ここで作られております。土壌は砂丘地なんですよね。

alt

酒栄:砂丘地で水はけもいいし、さらっとしたところが、芋にとって仕上がりがいい感じになる栽培になりますね。

そこで作られた品物っていうことで、昔は石川県の金沢市がさつまいもの北限と言われてました。さつまいもって寒さに弱いんです。それが作られる一番北の地域がこの五郎島地域なんです。そこで育ったさつまいもっていうことなんですけれども。

三原:歴史も長くて、約300年ぐらい作られてるんですよね。

alt

酒栄:300年と言えば、昔はこういうちょんまげの姿をしてたと思います。時は元禄江戸時代、300年プラスアルファですかね。1700年ぐらいに薩摩の国のから、さつまいもを持って帰ったと。

本当は、門外不出のものだったんです。それを黙ってちょんまげに隠して持ってきたんですよ。今からすれば悪い人なんですけど。(笑)

その当時はね、五郎島に持って帰って作ったんじゃないでしょうかね。神社の神主をしてた人らしいですよ。

田村:最初は、その種芋ひとつから始まったんですか?五郎島金時は。

酒栄:そうそう。この1本から始まった産地なんですよ。初心忘るべからず。

田村:もう今はね、五郎島金時の芋のうまさが全国に響いてますから。さつまいもがそこから伝わってきたとは思えないぐらいの進化を遂げてますよね。

酒栄:そうです。それはまたいろんな仕組みがありましてですね、それはちょっと後ほどご紹介するんですけれども。

まず、この持ってきた太郎右衛門という人の先人の知恵に感謝しておると。まずそこが大事かなと思いまして。

●海を越えて、海外へも輸出がスタート
三原:今年からは特に勢いがさらに増していて、このさつまいも五郎島金時が海を越えて海外の方への輸出も始まってるんですよ。

酒栄:そうですね1月下旬から、香港の方にスタートしております。ちょっとコロナで多少不安定なところもあるらしいんですけれど。まあ今年スタートで、年々、調子よくなっていってほしいですね。

alt

田村:酒栄さん、香港の人って、そもそも「さつまいも」を知ってるんですか?この初めて出会うさつまいもがこの五郎島金時なんですか。

酒栄:いや、香港は香港で地元の芋もあるらしいんですけれども。ちょっと食味がどんな感じかなあ。

三原:結構、台湾の人たちは炊飯器でさつまいもを蒸して(ふかして)食べる文化がじわじわ出てきてるみたいで、そんな中で五郎島金時の需要も今高まりつつあるようです。

酒栄:そうですね、去年とその前からテストの試運転はして、これをまた繰り返してほしいということがありまして。それじゃもうちょっと本格的に本腰を入れてやっていこうかということで始まっております。

三原:さらに、五郎島金時は「日本さつまいもサミット」というさつまいもの日本一を決めるコンテストで最高峰に輝いたんですよね。

alt

田村:一番認められたさつまいもってことですね。

酒栄:おかげさんそういうことになっとるみたいなんですけど、先人の方々の努力やと思ってます。

三原:海外や日本一になったりというのは、先ほどから言ってる「コッボコボ」。これが魅力となって、勢いをつけて今ブームになりつつあるんですよね。

●「コッボコボ」な五郎島金時はどのように作られるのか

三原:コッボコボは、「ホクホク」という食感を表す言葉なんですけども、これが栽培のこだわりにも繋がってるんですよね。

alt

酒栄:そうですね。最近焼き芋というと、ねっとり系の甘い蜜の出るような品種がもてはやされておりますけれども、五郎島地区のさつまいもはですね、ぱっと割ったときに、ちょっと粉質といいますか、ほくほくっとした感じが出てくるんです。

それは昔ながらのさつまいもなんですけれども。私らの地面(砂丘地)で作る上では、この道を極めていく方法が一番かなと思いまして、ずっとこの品種でやっております。

田村:「コッボコボ」っていう方言は、もう結構前からあるんですか?

酒栄:生まれたときからありましたんで、いつからと言われてもあれなんですけれども。この地域で「ホクホク」って言うたら、まだまだやなと思います。

それを「コボコボ」って言われて、あ。ちょっといいかな。「コッボコボ」って言われたらおおやっとこれに近づいたか!と、そういう3段階の最上級がコッボコボのさつまいもということです。

田村:「ほくほく」の最上表現が「コッボコボ」なんですね。

酒栄:そうそうそうそう。「今回の芋、コッボコボだったね」っつって。「お前のところどんな作り方したんや」つってそういうね、農家のそういうところから技術がいろいろと発達してたと思います。

田村:なるほど。僕ちょっと我慢できなくて、届いてすぐ食べたんですけど。蒸した(ふかした)だけなのに、もうスイートポテトみたいなのが出来上がってると思ったんですよ。

それぐらい味がしっかりとギュッと詰まって、甘みが何かこう、よくある密の方のさつまいもがあるじゃないですか。あっちはちょっと糖度が高すぎて、ねっとりとして喉に引っかかるなっていうのがあるんですけど、この五郎島金時は、なんか味が整ってるって感じがします。もうこのままでもスイーツが出来上がってるって感じのお芋ですね。

酒栄:うん、うん。それねんてそれねんて。

田村:そうなんですよ。もう完成してるんですよねここで。これが「コッボコボ」ってことですよ。

田村:本当にすごいんですよ。びっくりしちゃうんですよこれ。一番最初に食べたときに、なんて完成度の高い芋なんだ!と思いました。(五郎島金時の名前は)漢字が並んでるからもっとゴツゴツしい芋の味なのかなと思いきや、すごい繊細なスイーツです。もうこれもう何か天才パティシエが作ったんじゃないかっていうような味の整え方を、もうこの芋はしてますね。

三原:うれしいですね。めちゃくちゃ。酒栄さんが泣きそうになっている。

酒栄:いやこんな上手に表現してもらえるとは思ってなくて。本当にありがとうございます。

田村:でも酒栄さん、僕が感じているので合ってますよね、こういうことですよね。

酒栄:うんうんうん。なかなかね、自分らで言いたいんやけど、なかなか上手い言葉が見つからなくて、そう言ってもらえて、本当感謝してます。ありがとうございます。

田村:だから土の中から出てきてるのに、もうなんだろう。スイーツが完成して、出てきてるっていう奇跡がすごいなと思います。もうこのまま採れるんでしょ?土の中から。僕、何にも難しい調理してないんですよこれ。

芋が全部浸るくらいにお湯を張って、ちっちゃいサイズは20分から25分って書いてたんで、蒸して。そしたらもう、「コッボコボ」が本当にすごいですよ。

今ちょっと温度が落ち着いてますけど、温度が落ち着いた後でも、コッボコボ感はちゃんとあります。ホクホク感がちゃんとある。これも圧倒的な強さだと思います。この芋は。

田村:酒栄さん、何でこんな密度が高いんですか?この芋の密度っていうんですか。隙間がないぐらい詰まってるじゃないですか。

酒栄:本当はね、掘ったすぐはちょっと水分があって、ちょっとさっぱりとした感じになるかなあと思うんですけど。貯蔵というのがありまして。

貯蔵庫で寝かせたら、水分がうまいこと抜けて、そこで糖度が増すというか、甘みが強くなるんです。そのちょうどいい具合で出荷するのを心がけておりますので。

alt

田村:なるほど。秘密はここなんですね。採れたてだとこうはなってないんですね。

酒栄:採れたては採れたてで、そこそこ旨いんですけれども。これ(貯蔵)したらさらに甘みが増すという現象が起きますね。

田村:これ、でもよく気づきましたね。こうするという芋が美味しくなるっていうのを。

酒栄:この地方は冬場は雪が降るでしょ。1月2月にどうしても芋を食べたいということになると、貯蔵を上手いことしないと、食べられないんです。

酒栄:さつまいもってね、10度以下になったら傷んでくるんですよ。

酒栄:北陸は雪が降るところなもんで、10度どころか0度近くになる日もあります。そこであの芋をどれだけ長持ちさせるかっていうのを昔からいろんな方法でやってきて、行き着いたところがこれです。

alt

酒栄:昔ね、穴掘って穴ん中に埋めたり、そんなことしてやってみたんですけれども。何ていうかねぇ。やっぱこれが一番になったっていう感じかねと思っています。

田村:へえ。いや、芋の情熱が伝わってきますね。ここに至るまでの話聞いてるだけでも。

酒栄:いやいや私30年、さつまいも農家やってますけれども、だんだん変わってきてます。

田村:進化していってるってことですか。

酒栄:進化してますね。貯蔵に関してもそうですし、収穫に関しても昔は全部手で掘ってたんです。それを今、機械で楽にすすーっと掘ってくようになったんですけれども。

昔はずっと手で掘って毎日毎日ずーっと腰を下ろしてやったんですよ。だいぶ楽になりましたけどね。

田村:そうね、作業も技術を使ってった方がいいですもんね。今後のことを考えると。

酒栄:そうですね。それで面積も増えましたし、若いもんも増えたかなと思ってますよ。

alt

●さつまいもの相方はスイカ?五郎島の農業戦略とは?

三原:今、変化っていう話もありましたけれども。いろんな環境が変化する中で、実は五郎島金時だけを一年中作ってるわけではないんです。昔から、五郎島金時とあるものを色々試行錯誤して栽培しながら、一つの品目に行き着いたという経緯があります。

三原:実はここ(画像)にも書いてありますがさつまいもの相方はスイカ。五郎島の農業戦略とはということで、五郎島金時ともう一つ作っているのが「スイカ」なんですよね。

酒栄:私もスイカ作ってます。面積でいうと、半分をスイカ、半分さつまいもを作ってます。1年にスイカ一作、こっちの畑は芋一作になるんです。

ということは、さつまいもが1年飛ばして間1年空いて、さつまいも、ということになるでしょ。ということは、連作障害が少ないんですよ。

全国の産地で、あんまりそういうことしとる産地はないんかなあと思います。さつまいもオンリーで、毎年毎年やってますし、スイカはスイカで毎年毎年やっとると。

それにしてったらちょっと病気に弱いんですよ。収量も違いますし、あと品質にも多少響きますんで。スイカと芋を繰り返し、1年ごとに作るっていう方法をやってます。

alt

田村:連作っていうのは弱くなっちゃうんですね。栽培してるときに。

酒栄:そうですね。それに対抗するように薬とかいろいろあるんですけれども、やっぱりそういうのよりもやっぱ、見てたらわかるんです。

酒栄:これいい感じで芋に育っとるなあ、いいスイカになっとるなあっていうのが見とったらわかるもんで。その方が肥やしも少なくてもいいし、薬も少なくてもいいし。

alt

酒栄:ただ作業的にすごい大変ですよ。芋だけのワンセットの機械やらの道具だけでなくて、スイカでも1セット作らないとなと。

田村:写真を見るだけでも、もうこれ全然違いますもんね。

酒栄:全然違う、全然違う。

田村:スイカを1年やって、次はさつまいもって変わっていくから、要は2年に1回しか取れないってことですよね。さつまいももスイカも。

酒栄:そうですね。ただそれを畑の半分にして、スイカと芋に分けてますんで、結局来年はまた同じ量がとれるんですけれども。

お年寄りの方とかは、芋ばっかりの人とかもおいでますけれども、この方法が一番地面にもいいし、品物にもいいかなというのがありますね。

田村:わあ。これだけうまいさつまいもを作る人たちだから、スイカもきっと美味しいんだろうと思うんですけど、今年はさつまいもの年だったんですね。

酒栄:そうですね。おかげさんでこの産地も若いもんがいっぱいおります。平均年齢でいうたら、ロンブーの淳さんぐらいじゃないかなぁ。

alt

田村:僕、結構年齢が上です。46歳とかですよ。みなさんはどれぐらいですか?

酒栄:全国的な農家からすれば、もう60歳を超えとる産地いっぱいありますよ。

田村:あ、すいません。俺、48歳でした。すいません普通に間違えちゃいました。(笑)

酒栄:ごまかしちゃったねえ。(笑)

田村:いや、ごまかしてない(笑)芋が美味しくて、普通に間違えました。でも、日本の平均農業でいくと若いですね。

酒栄:全然若いと思います。

田村:なんで若い人が集まってくるようになったんでしょう。

酒栄:基本的に農家の息子ばっかりですけれども、やっぱりこれで食っていけるなっていうのが見えたらやってくんじゃないかなと思いますよ。

田村:そっかあ。

酒栄:そういう若いもんがいっぱい居るから、どっちにしようかなっていうやつらが、「あーじゃあ、あいつもやっとっさけ、自分もやろう」っていう感じになってますね。

酒栄:だいたい小学校とか中学校とか全部一緒ですよ。こいつら。私知ってるんですよ近所で。「このあんちゃんもしとっさけ、わしもすっかな」という感じで気楽に入れるんです。

田村:なるほど。「ちょっと顔なじみが作ってるから、俺もできるな」と思って、入ってくる時にハードルがやっぱり低いんですね。

酒栄:敷居が低いですね。農家の息子ならね。

田村:昔からの友達だから、作り方とかもシェアしながら。

酒栄:そうそうそうそう。(集まってお酒などを)いっぱい飲んで「お前んちのスイカうまかったな。今度はどんなしたや?」「これは水何キロのやっとらんのや?」ってグダグダと夜中までそんな話ばっかしてねぇ。

田村:いやでも、こうやって若い人がつぎたくなるっていうのは、たぶん酒栄さんの代の人たちが、きっといい感じで技術を継承していけてるし、若い人が入ってきたのを「まぁお前らはお前らでやっていいよ」みたいな。ちゃんと継承というか、自分たちの技術を継ぐっていうことが上手くいってる地域だと思うんですけど、そのあたりどうですか。

酒栄:えっとね。やっぱその人の作った品物っていうのも、畑やったら見えるんですよ。

酒栄:ほんでもう、いいとか悪いとか一発でわかるんです。だから、なんちゅうかな。「ダメやったらもう立ち直れんかな」って思う人もおると思うんですけど、「あ、方法を変えればこんなスイカになるんや。こんなさつまいもになるんや」というのが見えるんです。

酒栄:失敗しても「来年、あんなん(あんなふうに)にすればちゃんとできるな」っていうのが分かるんです。だから1年ダメでも諦めんと作れるっていうそういうのを繰り返して、今年良かったからって、次の年失敗する時もありますんでね。

酒栄:そういうのが見えるんで、「おまえんちよかったなぁ」とか後で言い合いしたって、そういうのを繰り返して産地と底力が上がってくれば、こういう感じになっとるんじゃないすかね。

田村:いや、なんかね、これ酒栄さんの話聞いてたら、「地方創生、地方創生」ってすごく言われて、何か都会の人が地方に力を貸さなきゃいけないみたいな風潮が今流れてましたけど、俺なんか、違うなと思いますね。

田村:酒栄さんは地元の人で、継ぐ人も地元の人で、この世代間がうまくマッチングすると、ものすごい力を生まれて。

だから外部の力とか頼らずに、うまくやっていけている。これはだってもう、どう考えたって、もう世界一の芋だと思いますよ。こんなにうまい芋を作るっていう地域はないと思うんで。

何か地方創生のあり方をもう1回...いや、みんな「自分たちの町の魅力と自分たちの町のパワーをきちんともう1回見直そう」っていうことをやった方がいい。

だから僕、酒栄さんに日本の地域創生の源というか何かヒントがありそうだと思いましたね。何かうまくいっているのがあるんだと思いますこの地域に。

酒栄:うん。多分ね。

田村:これは見習うべきことですね。

酒栄:そうそうそうそう。若いもんからも勉強になるし。「あいつのほうが、スイカつくらんうまいがんや」って。「ちょっとたのんまい、教えてくれや」いうのが、いい感じになるんやと思いますよ。

田村:そうね。酒栄さんが若い人に教えてくれって言われる空気がやっぱすごいと思う。結局、みんなが美味しいものを作れるようになったら、町が強くなるんですもんね。

酒栄:うん。なるほど、なるほど。そうそう、ただ自分ではあんまりわからないですけど...。

田村:いやでも、それをやってますよ酒栄さんたちは。

酒栄:そうかなぁ。ありがとうございます。

田村:いやぁ。だからだなこれ、圧倒的に勝てない芋ができる理由がわかりましたね、今の話でも。すごい!

酒栄:仲間でありライバルであり、ね。特に芋の検査とかするんですよ。みんなしてよって、一軒一軒、こうやって(箱を)開けて開けて、そこでもう「あちゃー悪評かいや。この芋の時やられたんかなぁ」って。それの繰り返しで、どんどんどんどんレベルアップして。若いもんにでも頭下げて。そういうのがいいんかなと思ってますけど。

田村:これ、酒栄さんの人柄だけじゃなくて、その地域の酒栄さんと同い年ぐらいの人もみんな同じような感覚だってことですよね。

酒栄:そうです。先輩方でも聞いてくるときもありますし、逆に教えるときもあるし、その逆もあるんです。「お前こんなことしとったら駄目やなんやぁ」って。で、「うんうん、すんませんすんません」ってね。いろいろ直してみたり。それの繰り返しで、30年やってきました。

田村:三原さん、僕はすごい芋にも驚きましたけど、それよりもこの地域のコミュニティーの力みたいなのが、五郎島金時の味を作ってるってなると、他の地域はすぐに真似できるような味じゃないなって感じましたね。

三原:おっしゃる通りで、本当に絆の強さっていうのはすごく傍から見ていても感じますし、それが本当に長年続けることが、味にも繋がってるんですよね。

そういった先輩後輩の姿を見ながら、農業戦略を築きながらですね、さらにその農業戦略だけじゃなくて、今度は消費者の皆さんにも寄り添っていくっていうところも、部会全体となって頑張ってるんですよね。

その一つに、先ほど芋の会議をしてるっていうお話も出てきましたけれども。毎年シーズンが始まると、芋の会議を行うんですね。

「30以上の等階級に分けて消費者に寄り添う」っていうこれがまさに芋の会議ですけど、この芋の会議っていうのはどんなことしてるんでしたっけ?

alt

●消費者に寄り添うことで生まれた「30以上の等階級分け」
酒栄:えっとね。まずさつまいもを箱詰めするときに、この地域、30種類に分けるんです。たぶん日本で一番多くて、30種類に分けて仕分け作業をしてるところはないかなあと思ってます。

重さのところは誰でもできるんですけれども。綺麗な形の秀品に、ちょっといびつな優品、良品とかいろいろありまして、全部で30種類なんです。

仕分けをするのにね、みんな「これがこっちこれがこっち、これはどっちやろ?」とか、あーでもねーこーでもねー...って言って。「これ、もうちょっと落とした方がいいんじゃねか?」つって...そういう会議をするんです。

alt

やっぱ農家やからね、芋の形だけじゃなくて、それをその形の芋がどうやって栽培したっていうそこまで見えるんですよ、芋を見ただけで。

酒栄:そういうところからのいろんなコミュニケーションで栽培技術も上がりますし、やっぱこういう綺麗な形に整えたりとか、いろんなことを話し合うんですよ。

三原:これ全部味は同じなんですよ。

田村:お互いがお互いにきちんと品質を管理し合うっていうことでも、このコミュニケーションはすごい重要だってことですね。

三原:はい。また消費者のニーズに沿った形で、等階級っていうのもすごく厳しくやっています。

alt

酒栄:80のばあちゃんとかね、いるんですよ。もう腰が曲がって身長だけでいったら、1メーターないぐらい曲がりすぎですよ。(笑)そんなばあちゃんでも真剣に前のめりで見てますよね。

こういう姿を見てわしらもちゃんと勉強せんとなあとか、これでいろんなものを見直してますね。

田村:いやいいですね。この集まりがいいですね。いろんな世代の人が集まってきて、みんな意見が言えるんですね。「これはこっちじゃないか」とか、「これはこっちの等級じゃないか」ってちゃんとお互いに言えるんですよね。

酒栄:一応農協のもんが、音頭取りをするんですけれども。「昨日、今日来たもんが何言っとらんや」って怒られるぐらいです。(笑)

三原:いろんな意見が飛び交いますよね。こうして細かい等階級分けをすることによって、市場の人たちや実際にご自宅で食べられる人たちにも、いろんな形で幅広いお料理で食べてもらえるような形で出荷しているということなんですよね。

酒栄:うん。そうですね。料理に関して言うたらね。この産地の芋は焼き芋だけじゃないんです。焼き芋だけでいうたら、いま蜜の出るような品種もあります。

この産地の芋は、料理で、切ったり煮たりして形が残るんで、天ぷらとか「めった汁」...普通に言うたら豚汁なんですけれど。この辺の地域では、豚汁にさつまいもを入れるんです。

alt

田村:うまそう!

酒栄:うん。これB級グルメね。この地域独特やと思うんですけど。「やたらめったら入れる」とかそういうふうに言われてます。「めったに食べられない」とか諸説あるんですね。「めった汁」は郷土料理でして、これを甘い芋で作ったら形が崩れちゃうんですよ。

こういうのがあるんで、北陸の人はさつまいもを上手に料理してくれるんですよ。その期待にも応えんなんしね。

「今までこうやったんに、今年の芋はこうやった」って言われて、「すんません、すんません。はい」って(笑)。難しいところです。

田村:酒栄さん、これ皮ごと入れるんですね。

酒栄:そうそう。皮ごと入れたほうが色味もいいですし、さつまいもの皮の付近って栄養がすごいあるんですよ。

田村:いま皮ごと食べましたけど、薄くて全然気にならないですね。

酒栄:特に蒸した(ふかした)時とか、めった汁や味噌汁に入れたときとかは、全然邪魔にならないと思いますよ。

田村:今までって、調理すると芋の中の部分と、皮の部分に隙間ができるみたいな芋にしか僕は出会ったことなかったんですけど。これはもう、どんな調理しても皮がきっちりと包んでくれてる。皮だけが勝手に剥がれるとかないですよね、この芋って。

酒栄:ありがとうございます。こんな芋しか食べたことないもんで(笑)、ほかの芋はわからないんですよ。

田村:ほかの芋って、三原さん食べたことありますか?焼いたりとか調理すると、隙間ができて皮が勝手に離れていくとか、皮がそもそも厚くてとても食べれないとか。

三原:そうなんですよ。ねっとりしたやつはね、皮との間にも隙間が出ちゃいますよね。そういう意味では、五郎島金時は皮も感じないくらい食べやすいお芋ですよね。

酒栄:そうなんやな。

田村:そうか!酒栄さんは、これしか食べたことないから。当たり前になってるからね。

酒栄:うんうん。

田村:皮が食べれるとか意外... 俺だけかな?俺、今度から皮ごといきます。

三原:ぜひ!どんなものを調理するときも皮ごとね。天ぷらはもちろんですし、先ほどの「めった汁」もそうだし、どんなものでもそのままいけちゃいますね。

酒栄:意外と農家って自分ちのさつまいもしか食べてないんで、ほかの産地の芋って食べないんですよ。

田村:そっかあ。わざわざね。

酒栄:家(うち)にふんだんにあるでしょう。ほかん家(ち)のは買って食べたことないもん。

田村:そうですよね。おかしい話ですもんね。自分とこで作ってるのに、スーパーで買いに行くってそれはないですよね。(笑)

酒栄:ないないないない(笑)チェックはしますよ。

三原:だから「他のねっとり系といろいろ比べようか」とかって言っても、「絶対やらない」っていうんですよ本当に。試そうともしないですもんね。それぐらい誇りを持って。

田村:いやもう、唯一無二だと思います、この芋は。

酒栄:ありがとうございます。

田村:僕の親父は、戦後まもない頃に生まれて、おやつもご飯も全部さつまいもだったから「あんまりもう食べたくない」って家にあんまり出てこなかったんですよ。

僕、東京に来て、自分がまだお金がない時に、「親父が何かさつまいもを食ってる」って言ってたなって思い出して、さつまいもを食べ始めたんです。

田村:そしたら「こんな美味しいものを、何で親父は毛嫌いするようになったんだろう」って。ちっちゃい頃からずっと食べてたからもう芋に食べ飽きたんだと思うんですけど、そんな親父に俺、これを贈りたいです。

五郎島金時は食べたことがあって、今は山口の下関にいますけど、ちょっとこの芋をプレゼントしたいと思いましたね。

酒栄:昔はね、そういう品種もあって苦手な年配の方もいましたね。

田村:そうですよね。

酒栄:うん。「戦争中に散々食べたし、もう食いたくない」っていう人がおると思うんですけど、またこれをちょっと見直して、五郎島金時を一つ食べてみていただけたらなと思っております。

田村:これはあのときの親父の思い出を覆すぐらい上手いはずです。

酒栄:そうそう、あのときの芋ではないですよね。

田村:ないですよね。

三原:ちょっと先ほどから気になってたのが、淳さんなにか...やっぱお水が必要で飲まれてます?

田村:いや、これ、酒栄さんに五郎島金時の芋焼酎を送ってもらったので飲んでいます。僕、普段芋焼酎かハイボールのどっちかなんですよ。

田村:芋焼酎、僕、たくさんいろんな地方の飲んでるんですけど、ずば抜けて喉越しのスッキリ感がめちゃめちゃいいですよ。キレがもうね、半端ないの、この芋焼酎。

三原:芋焼酎がお好きな方にこれだけ言われたら嬉しいですね。

田村:これすごいっすね。この飲んだ後の逃げ方がすごいですね。すーっと消える感じが。

三原:五郎島金時って結構甘さが上品なので、その上品さをそのまま生かしていただいて作り上げています。おっしゃる通りで、すっと抜けるのがありますね。

田村:抜けがいいですよね。だけど鼻腔のところに香りだけが残ってる。どえらい芋焼酎作ったなんてもう、鹿児島が怯えてると思いますよこれ。

酒栄:これ鹿児島というか、九州で作ったんですよ。

田村:本当だ鹿児島県だ!

田村:わざわざ芋を持ってって!?

酒栄:そうそう

田村:すげえええ。(笑)いや、作ればいいじゃないですか、これ。

酒栄:鹿児島から(種芋を)取ってきたんで、ちょっと返さんなんかんなって。(笑)

田村:これいい話ですね、酒栄さん。あの時に持ってきたさつまいものお返しということですね。これはストーリーとしてもめちゃめちゃいいな。

三原:やっぱり本格派の九州で作った甲斐は本当にありましたね。五郎島金時は他にもいろんな加工品を展開しています。

焼酎の他にもいろいろな五郎島金時のお菓子もありますので、いろんなところで見かけたら、味わってみてください。

田村:チップスがおすすめです。これすごいよ。この味の閉じ込め方が素晴らしいですから。これは本当に野菜チップスの中でも味がそのまま残ってる。食べ比べましたから。ちゃんとチップスとして閉じ込められててすごいですね。

三原:旨塩も効いていてね、ありがとうございます。

alt

三原:そんな五郎島金時ですが、ぜひ、もっと五郎島金時との距離を近づいて縮めていただきたいなと思いまして、限定の特別な特典として「五郎島金時の畝のオーナー」を募集したいと思います。

田村:ええ?畝?

酒栄:畝。この今見えてる部分が畝になるんですけど、これ、土をちょっと高く盛るんですよね。そこに苗を植えていくんです。皆さんにオーナーになっていただいて、五郎島金時を栽培していくと。

一畝でだいたい幅が80センチで約4m近くあって、ここに苗を10株植えて、さつまいもが約10キロぐらい収穫できます。

三原:ぜひ何か栽培することで、もっともっとこの五郎島金時、こんなふうになっていくんだなとか、現地の魅力っていうものをぜひ触れていただきたいなと思っています。

alt

田村:酒栄さんはクワを持っていますけど、今も畝から作るんですか?

酒栄:いや、今は機械ですけれども、端っこの方とか、光のちょっと届かないところとかは手ですね。9割方機械なんですけど、あとの1割弱は手でやらないといけないところがあります。

田村:なるほどね。

alt

三原:こういったスケジュールの中で、1年間、五郎島金時を育てていきます。毎年9月頃には五郎島金時祭(まつり)というイベントやいろんな催し物があるので、そういったところにも来ていただける機会になればなと思います。

alt

三原:5つの特典がオーナーになるとついてきます。最初は出荷したての秋の五郎島金時、貯蔵した後の冬の五郎島金時、そして加工品もセットにしてお届けします。

三原:その他に、畝のところに看板が立ったり、気になる生育状況を皆さんにお知らせしたり、レシピがついてきたり...といろいろ用意しております。

そして中でも楽しんでいきたいなと思うのが商品開発です。ぜひ皆さんに携わっていただければなあと思ってます。

三原:五郎島金時で「こんな商品があったらなあ」みたいなのをみんなで考えられたらおもしろいんじゃないかなあと。どうでしょう?淳さんの方で今思い浮かぶものとかありますか?

田村:僕、芋のペースト状のものが欲しくて。これ何に塗っても多分めちゃめちゃうまくなると思うんです。それこそジャムじゃなくて...あ、ジャムはもうあるんだ。

三原:ジャムはもうあるんです。今年(2022年)2月14日に販売が始まりました。

田村:僕、この純粋なペーストでもいいです。これが調味料になるっていうか、多少バターとか何かと混ぜるのか分かんないんですけど。パンに塗ってもいいし、肉の上に乗せてもいいし、ご飯の上に乗せてもいいし...っていうのができそうな気がするんですね、この五郎島金時のこのベースがあれば。

三原:本当ですね!意外にないですよねあるようでないですよね、ペーストだけって。

田村:マヨネーズの容器の中から芋のペースト状のやつが出てくるだけだと思いますね。

あ、肉に合いますねこれは。どの肉にも豚にも牛にも鳥にも合うような気がする。そしたら口の中で勝手に口内調理が始まって、めちゃめちゃうまみが爆発すると思うんですね、この芋に引き出されて。

三原:「いもチューブ」いいかもしれないですね!

田村:名前は「いもねーず」の方が売れると思いますよ。

三原:いもねーず。マヨネーズとさつまいもで「いもねーず」。

酒栄:わかりました。「いもねーず」。登録します。「いもねーず」いいね。

三原:オーナーの制度の中でも、またいろんな案を出し合って、皆さんでコミュニティの中で、また商品を開発できればなと思っております。そんな絆を今後もっともっと繋げ、継続しながら五郎島金時の魅力を金沢の方で守っていきたいと思います。

●出演者からのメッセージ
ロンドンブーツ1号2号 田村淳さん

僕はこの芋が届いた瞬間、形のよさにびっくりして、すぐ食べたくなって、すぐ蒸して(ふかして)食べたんですけど。綺麗な形から想像してる味の何倍も、食べた時にまた衝撃があって、何度も何度も衝撃があるお芋だったんですよね。

一口に「お芋」って言っても、みんなの人生の中で思い浮かべるお芋って、近所のスーパーの石焼芋コーナーとか、何か家で出てくるその芋料理とかってあると思うんですけど、この五郎島金時は、土から出てきてその乾燥しただけでも、完成度がかなり高いっていうこと。

今日僕がこの配信で、「酒栄さんをはじめ、この地元の人が芋を通してのコミュニケーションが始まって地域が強くなって、地域が強くなるとこの味が守られていく」っていう、これからの日本の社会問題を解決する一つが五郎島金時には詰まってるような気がして本当に大変勉強になりました。ありがとうございました。

Sponsored Links

感性を刺激するツアーを探す

ガイド付きツアーは、ガイドの感性に触れるツアーです。旅行という非日常で多様な価値観に触れ、自らの価値観を豊かにしましょう。

探す
WOW U-mediator

モバイル版アプリ

モバイル版アプリをインストールすることで、タブレット・スマートフォンで快適にWOW Uを閲覧・操作できます。
動作保証環境については各ダウンロードページをご参照ください。

App Mock