じっくり丁寧につくられる「心の酢」に込められた想いを知る

2022/04/05
2022/04/07
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地方には並々ならぬ情熱・こだわりを持って生まれる食材や伝統工芸などが数多く存在します。それらの品質が一級品であることはもちろん、その背景には生産者の想いや今に至るストーリーがあります。

「日本全国・地産伝承 いき物語」では、 テレビ局が地元で活躍する人を深掘りすることを通して地方の魅力を伝え、 地元でしか流通しない特産品や伝統工芸品などを紹介します。

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今回の主役:戸塚醸造店 代表 戸塚 治夫さん
富士山麓のまち、山梨県都留市にある戸塚醸造店では、全国でも珍しい甕(かめ)を使った昔ながらの製法によって、純米酢「心の酢」を作っています。
通常は1週間程度で完成するお酢を、およそ一年半をかけてじっくり醸造される「心の酢」は、まろやかな味わいや、豊かな香りが特徴です。
今回は、戸塚醸造店の戸塚治夫さんに、酢造りに込める想いやこだわりを語っていただきました。

出演:田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)・森本英樹さん(ニブンノゴ!)

【目次】

こだわりが詰まった「心の酢」ができるまで

  • 「心の酢」とはどんなお酢?
  • 「心の酢」を実際に味わってみると...
  • 「心の酢」を炭酸で割った「炭酸酢」の味は?

異色の醸造家?!戸塚さんが酢造りを始めたきっかけとは

  • 戸塚さんと先代の出会い
  • 酢の世界へ飛び込む決断をした経緯
  • 富士山の伏流水を求めて都留市へ

先代の想いを引き継ぐ戸塚さんの精神とは

  • 発酵室で寝泊まりをしてわかったこと
  • 必要以上の機械化はしない
  • 戸塚さんの今後の目標とは?

出演者からのメッセージ

こだわりが詰まった「心の酢」ができるまで

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戸塚醸造店のお酢は、無添加・自然発酵にこだわり、じっくり丁寧に作られています。
こだわりのお米と富士山の雪解け水からできた麹を使い、「酢もともろみ」と呼ばれる酒を作ります。その後、「酢もともろみ」を種酢とともに甕(かめ)へ移し、「静置発酵法」という仕込み方によって発酵・熟成します。長期熟成させることで生まれる「上澄み」だけを無濾過で瓶詰めし、「心の酢」が完成します。

お酒造りに2か月、発酵に3か月、熟成に8か月と、商品になるまでに約1年半かけて作られる「心の酢」は、最速8時間で酢ができる「速醸」で作られた大手のお酢にはない味わいが感じられます。

「心の酢」とはどんなお酢?

森本:「心の酢」とはどのようなお酢なのでしょうか?

戸塚:お酢の種類で言うと「純米酢」になります。お米だけで作っているお酢になります。製造方法は昔ながらの作り方で、ゆっくり時間をかけて、菌の働きだけで醸しているというお酢になりますね。

戸塚:お酢の前段階がお酒なんですね。ようは日本酒と同じ製法で、原料となるお酒を造ります。お酒の中に「酢酸菌」という酢の菌を入れて、そうすると酢酸菌がアルコールを栄養に増殖して、アルコールがゼロになって酢になるという流れになりますね。

「心の酢」を実際に味わってみると...

田村:フルーティーだな〜。つんざく感じがまずないですね。スーパーでよく売られているお酢に比べると、まろやか、フルーティーでやさしい感じ。

戸塚:そうですね、JAS規格のだいたい3〜4倍のお米を使って作っているので、お米の風味が非常に強いです。つーんと刺激のあるお酢とは全然違います。

田村:今まで僕が使ってきた酢は、口の中でぎゃーんと来るんです。でもこの「心の酢」は、酸味はあるけど、まろやかなんだけど、お酢の仕事をしてくれているっていう。これ料理の幅が広がるような気がするな~。

戸塚:非常に食材になじみ、浸透力もすごく良いので、ピクルス等の漬物にしてもおいしいですし、油との相性も良いので、餃子に合わせるととてもおいしいと思います。「餃子はこのお酢だ」と言うファンも多いですね。

田村:そうですよね、動物性の油とすごくマッチしそう。やさしいんだけど、お酢の仕事をしっかりとしてくれるから、動物性の強い味に負けない感じ

「心の酢」を炭酸で割った「炭酸酢」の味は?

田村:甘みとか全然いらなくて、むしろ炭酸で希釈することで、この酢が因数分解できて、味がわかりやすくなります。しかもこれがね、本当にこのままドリンクとして販売してもいいくらい、相当な出来栄えですよ。しかも体にいいんですよね。もう今日の夜から、お酒の代わりに炭酸酢を飲みます。

異色の醸造家?!戸塚さんが酢造りを始めたきっかけとは

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「心の酢」をつくる戸塚さんの前職は銀行員。取引先であったお酢工場から、「跡継ぎがいないため廃業手続きをしたい」という相談を受けました。
酢造りでは「種酢(たねず)」と呼ばれる、酢酸菌が生きたお酢を代々培養し、受け継いでいきます。酢酸菌は外部から手に入れることはできないため、次の種酢を残すためには酢造りを続ける必要があります。

戸塚さんは酢造りに興味を持ち、醸造のお手伝いをするようになりました。やがて先代の「何とか続けたい」という強い想いを感じ、工場を引き継ぐ決意をしました。

戸塚さんと先代の出会い

戸塚:10年くらい銀行に勤めて、たまたま勤務先が移動になって、酢の工場に挨拶に行きまして、最初の挨拶で「この工場もう閉めるんだけど、どうやって会社をたためばいいのか」という相談から、先代と出会ったんです。なので先代とは身内ではなく、全然他人です。
先代は後継ぎがいない中で、もう高齢で、お酢づくりを続けるにはなかなか大変なんですね。一から十まで手作業で、寝る時間もばらばらで、ちょっと体力的にも限界だというところで。

田村:だからって、酢を作ったことがない状況で、銀行員を辞めて、「酢を作らせてください」ってお願いするのは、よっぽどの何かがあったというわけですよね?

戸塚:そうですね、うちみたいな昔ながらの製法で作っているところは10軒くらいしかないんですね。関東ではうちだけで。「珍しい職種だな」なんて言いながらいろいろ調べたりとかしてました。

そんな中、先代が体調を崩して入院とかしたりしたんですね。その時に、近所に勤めていたおばちゃんちも高齢で、「戸塚くん、土日は銀行休みなんだから手伝ってよ」と頼まれて、「いいですよ、力仕事ならやりますよ」って形で手伝いをしていくうちに、「あれも手伝って、これも手伝って」ってだんだんなってきて。それをやっていくうちに、自分も醸造は知らない世界だったので、すごい興味を持ちました

酢の世界へ飛び込む決断をした経緯

戸塚:お酢って、作るのを辞めちゃうともうおしまいなんですね。酢の菌って売っていないので。今作っている発酵室のお酢、一回に5,000リットルつくるんですけど、その中の1,000リットルが「種酢」になるんですね。なので永遠と作り続ける必要があります。

先代は作るのを止めていたんですね。今年のこの仕込みで作るのを止めて、在庫を売り切ったらやめるっていう、ある意味で迫られていたタイミングでした。

田村:タイムリミットがあったんですね、「やるのか、やらないのか」っていう。

戸塚:やるならここでやらないと、っていうところだった

田村:そっか~。でもその背中を押されたのは、戸塚さんにとっては良かったんでしょうね。

戸塚:そうですね、金融業もちょうど10年勤めて、次のことを考えたいなというタイミングでもあって。自分は「作る仕事」に憧れがあって、いろんなことが重なって、というところですかね。

田村:ご家族の方はどうでしたか?銀行員になって、「きちっとした会社に入って安泰だね」と言っていたところから、どうなるかわからない酢造りを始めるって相談したら、なかなか理解が得られないんじゃないかなと思うんですけど。

戸塚:まあ悩む部分もありましたけど。僕自身は次男坊で、やりたいことを自由にしろじゃないけど、田舎なんでね。長男だとどうしても跡をとってどうこうとか、きっといろんな事が出てくるんですけどね。それも30くらいの年だったので、ここでやるんだったらちょっと頑張ってやらないとなかなか難しいかなって思いました。

田村:おもしろい経歴だな~。

富士山の伏流水を求めて都留市へ

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森本:ここ(戸塚醸造店)に来られてどのくらいですか?

戸塚:ここに完全移転して丸2年です。別のところでやっていたんですけど、富士山の水を求めて、より富士山に近い都留市に移りました。富士山の湧き水の最終地点に工場がありまして、工場の蛇口をひねると富士山の伏流水が出るようになっているので。

森本:なのでここに来たのですね、水が欲しくて。

田村:やっぱり全然違うんですか、仕込み水に富士山の水を使うっていうのは。

戸塚:そうですね。軟水で水の質もいいですし、都留市って富士山の伏流水の中で一番富士山から離れている場所なんですね、最終地点なので。より深く水が入って、時間をかけて出てきています。

田村:よりまろやかになっているんですね。だからこの口当たりなんだな~。

戸塚:醸造はだいたい水ですね、酒蔵もそうですけど、水のいい所には昔から醸造する場所がだいたいあります。

先代の想いを引き継ぐ戸塚さんの精神とは

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戸塚さんの酢造りの背景には、様々な苦労やチャレンジ精神があります。醸造の知識ゼロから始めた酢造り。始めは失敗しているかどうかもわからない状態だったと戸塚さんは語ります。目には見えない発酵の状態を知るために、菌になったつもりで発酵室で寝泊まりをしていたことも。とにかく必死に行動し、酢造りをとことん突き詰めていきました。

発酵室で寝泊まりをしてわかったこと

戸塚:以前は、発酵室で寝泊まりをしました。30度くらいであったかいので、普通に寝てましたね。海でよく使うようなサマーベッドを一つ置いて、その中で寝ていました。

戸塚:お酢の発酵は3か月はかかるんですね。でも今の状態が良いのか悪いのかなかなわからなかったりとか、いざ入ってみたら醸造って奥が深くて。同業者もおらず、勉強するところがまずなくて、どうしようと思って。

さっき(発酵室の甕の中で)膜が張っていましたよね。あの膜がアルコールを酢にしていくんですけど、その状態が良いか悪いかとか、そういうのも最初わからなくて。ちょっとおかしな膜が張るとすぐに取っちゃったりとか、それでまた新しい膜が張ったりとかで、取ってばかりいたら今度は発酵しないんですよ。それで今度は膜を取らないでいると、今度はおかしな菌が増殖したりとか。やっていいのか悪いのかもわからなくなってきたりとかして、

田村:えっ、それは先代から教わるんじゃないんですか?

戸塚:先代からも一応教わったんですけど、作り方で言うと、自分は深く追求しすぎてしまって。先代の作り方はざっくりだったんですよ。いろいろ勉強し始めたらもっといける、もっとやり方があるってどんどん進んで行っちゃったので。

森本:先代の技法と変えているんですね。

戸塚:そうですね、先代が例えば10工程だとしたら、自分は100工程まで持って行っちゃっているというか。それくらい密に持って行っちゃったので。

田村:より深く知るために、すぐさま勉強できる場所に身を置いておきたいってことですよね。

戸塚:はい。結局寝泊まりしているうちに、匂いの違いとかがわかるようになってきました。膜の状態が悪いと匂いが違うんです。なので、いい匂いがどれかからすると思ったら、甕がいくつかあるんで、匂いのおかしい膜を取って、いい匂いのする膜を移植できるんですよ。すると膜が表面に広がって、発酵するっていう。

田村:わ~おもしろい。

戸塚:それを繰り返して、全部が良いようになったっていうことです。

田村:いいやつがどんどんいろんな甕に渡っていって、さらにいいやつが色んな甕に行くから、菌の決勝戦みたいなのがずっと行われているってことですよね。

戸塚:いかにいいものだけを繋いでいくかっていうところですね。結局できたお酢が次の種酢になるので、お酢の出来が悪いと、種酢にした時に、次もダメなものができてしまうっていう。

alt▲発酵室

必要以上の機械化はしない

田村:これはもう、戸塚さんの肌感みたいなものになりますけど、これからの時代、戸塚さんのその感覚を、今だとAIに覚えさせられるじゃないですか。それはやろうと思うんですか?

戸塚:大手さんはそういう風なことで今はいろいろやっていると思うんですが、それって結局環境を整えないとダメなんですね。例えば建物の中の温度を常に一定にするとか。

ただ私がやっている自然づくりって季節によって違ってくるんです。例えばお酒を造るにしても、秋と春はあったかい、冬は寒い、その中で、どういう風に菌を操るのか。

酵母菌も季節によって変えたりとかしているんです、例えばお酒を造るのにも、あったかい季節には、酒蔵さんはタンクを冷却する装置を使ったりもするんですけど、うちは一切そういうのを使わないので、あくまでも自然環境にあった菌を選んで使うという取り組みをしています。

田村:肌感じゃないとわからないですね、それは。

森本:戸塚さんが酢造りで一番大切にしていることって何ですか?

戸塚:菌にストレスを与えないことです。菌が一番活動しやすい環境を整えてやる、温度や湿度もそうですし、無理をさせないということですかね。

森本:本当に敏感に変わっていくということですか、その環境って。

戸塚:時間をかけて発酵させるので、明らかに違いが出てきたときってもう手遅れなんですよね。途中で「今日は一日くらいいいか、明日にしちゃおう」とか、慣れてくるとなりがちなんですけど、やっぱりその少しの差が長い年月で考えるとすごい差になってくるので。

朝だろうが夜だろうが、時間に関係なく、菌の都合で手入れをするという繰り返しです。一番働いているのは菌なので、私は菌が活動しやすいように手伝ってあげているという感じで今仕事をしているので。

田村:そうなると戸塚さんのストレスも心配ですけど...大丈夫ですか?

戸塚:作るのが好きでやってますので。一から十まで全部自分でやりたいので、将来的に大変になってきても、分業制は考えていないですね。麹を作る最初の段階から、酢になるまで、自分が一人でやっているので。

田村:年齢を重ねていっても、分業にするんじゃなくて、自分がやれる範囲にしていくってことですね。

戸塚:はい。もし今後誰かやりたい人がいて教えていく場合、その人はその人で一から十まで自分で作ればいい。分業制にするほどの規模は考えていないので。

戸塚さんの今後の目標とは?

森本:今後の目標はありますか?

戸塚:喜んで使ってもらえるものを、ただただ一生懸命に作るという発想なので、例えば来年はこれだけ売ろうという目標とか、そういうのは一切ないです。

ただ喜んで使ってもらえて、それを一生懸命作って、気が付いたら「これだけ売れているな、ありがとうございます」っていう感じですね。

田村:この酢を一回手に取った人は、他の酢に戻れないんじゃないかな...って思うんですよね。

森本:今出す商品が、一年半前に造られたものなので、増やせないんですよね。

戸塚:そうです。今ここでほしい人がどーんと来たところで、結局出せないということです。次の甕を待ってもらうしかないです。

田村:「弟子になりたいです!」って来たら、受け入れるつもりはあるんですか?

戸塚:そうですね、都留市に移転してきてある程度大きくはなっていますので。自分も一年一年、歳は確実にとっていくので、今後どうしようかなということは考えていますね。

出演者からのメッセージ

戸塚醸造店 代表 戸塚治夫さん
今日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。ぜひ「心の酢」を味わっていただきたいです。よろしくお願いします。

ロンドンブーツ1号2号 田村淳さん
酢の恩恵は日頃、料理のわきにいつも酢がいてくれて、その酢がすごく味を引き立ててくれるというのを感じながら食事をいただいていましたけど、今日から酢がメインにくるというか、口の中に残っている心の酢が、相当インパクトが大きいので、ここからの酢の人生がかなり変わりました。
今日から僕は炭酸酢を飲みますし、なによりも炭酸酢を飲みながら、酢醤油を作って餃子を食べるというのを楽しみにしたいなと思いましたね。餃子を楽しむのではなくて、お酢を楽しむ餃子というのを知れたことが、なによりも人生が豊かになったなと感じました。

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